【日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち】(2015年/台湾/162分/監督:黃亞歷(ホアン・ヤーリー))
1930年代、日本による植民地支配が40年近く経過した、日本統治期の台湾。古都・台南で、日本語で詩を創作し、新しい台湾文学を創りだそうとした、モダニズム詩人団体、「風車詩社」。植民地支配下で日本語教育を受け、日本留学をしたエリートたち。日本近代詩の先駆者であり世界的評価を得ているモダニスト西脇順三郎や瀧口修造をはじめとする、日本文学者たちから刺激を受け、日本文学を通してジャン・コクトーなどの西洋モダニズム文学に触れる中で、若きシュルレアリストたちの情熱が育まれていった。日本語で新しい台湾文学を生み出そうとした彼らは、戦後の二二八事件、白色テロなど、日本語が禁じられた中で迫害を受けていく。植民地支配、言論弾圧という大きな時代の渦の中に埋もれていった創作者たち。その情熱は現代を生きる私たちに、何を問いかけてくるのか。
近年、「懐日」ブームの台湾では、『KANO 1931海の向こうの甲子園』『湾生回家』など、日本統治時代に関連する映画が多く作られている。ホアン・ヤーリー監督の長編初監督作品となる本作も、台湾のアカデミー賞と言われる、第53回金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した注目作である。黄監督は林永修(修二)の詩を通して、台湾でも忘れられた存在であった「風車詩社」を知り、日本統治期の台湾にこのような創作をしていた詩人たちがいたことに衝撃を受けたという。元メンバーの家族、研究者など関係者へのインタビュー、資料調査など、約3年をかけて製作された本作は、文学的視点からも大変貴重な作品となっている。
本作は、詩の朗読、過去の写真やシュルレアリスム芸術作品を多用した貴重な資料映像、前衛的な手法の再現パートの、3つの要素で構成されている。台湾でも歴史の波に埋もれ、忘却の彼方に置き去りにされていたモダニズム詩人団体「風車詩社」の文学を通して、当時の台湾と日本の関係や、政治弾圧という社会的な側面が浮かび上がる。日本語で創作する事への葛藤を抱きながらも、ジャン・コクトーや西洋モダニズム文学への憧れを、美しく軽やかな日本語で昇華させた文学作品は、純粋なまでの芸術性と語感を持って、80年以上の時を経ても色褪せない独自の文学として私たちを魅了する。
映画で引用される主な人物◎西川満、マルセル・プルースト、ジャン・コクトー、瀧口修造、ルネ・クレール、國分直一、新垣宏一、前嶋信次、佐藤春夫、庄司総一、芥川龍之介、マックス・ウェーバー、江間章子、堀辰雄、ジェイムス・ジョイス、西脇順三郎、崔承喜、郁達夫、郭沫若、ライナー・マリア・リルケ、島田謹二、三好達治、濱田隼雄、龍瑛宗、安西冬衛、堀口大學、北園克衛、中川伊之助、矢野峰人、村野四郎、横光利一、福井敬一、ジョルジョ・デ・キリコ、サルバドール・ダリ、イヴ・タンギー、ジョアン・ミロ、ルネ・マグリット、古賀春江、郭柏川、パブロ・ピカソ、マックス・エルンスト、マルセル・ヤンコ、住谷磐根、マリオ・シローニ、カルロ・カッラ、リュボーフ・ポポーヴァ、伊藤正年、マックス・エルンスト、三岸好太郎、南風原朝光、川口軌外、斎藤長三、夏秋克己、靉光、恩地孝四郎、北脇昇、瀬野覚蔵、難波香久三、阿部合成、東郷青児、立石鐵臣、アレクサンドル・ロトチェンコ、カジミール・マレーヴィチ、石川寅治、久保克彦、飯田實雄、楊啟東、アンリ・マティス、清水良雄