【解説】
「白蛇伝」は、1958年(昭和33年)10月に公開された、日本初のオールカラー長編劇場用アニメーション映画。まんが映画とよばれたアニメーションは、それまで劇場上映用の短編作品やコマーシャル用のアニメーションなどが制作されていたが、ディズニーの長編アニメーション作品のような長編カラー作品は日本ではまだ制作されていなかった。
当時、新興の映画会社であった東映はアニメーション映画の将来の可能性を見据え、1956年に東映動画(現・東映アニメーション)を設立。「白蛇伝」は約2年半後の1958年に完成した。
物語やデザインの基本設定に画家で登山家の岡部一彦が、背景作りには舞台美術家の橋本潔ら当時活躍していた美術関係者が起用され、それまでに短編アニメーション「こねこのらくがき」などでも演出を担当した藪下泰司が、57年の12月から絵コンテを手掛け実制作がスタートする。原画を大工原章と森康二のベテランスタッフ2人が担当し、新人の動画担当のアニメーター42名を率いて完成にこぎつける。当時アニメーション制作の経験者などいない時代に、順次募集されたスタッフにアニメーションのノウハウを教育しながら制作された「白蛇伝」は、約7カ月の作画期間と4047万1000円の製作費、原画1万6474枚、動画6万5213枚を費やして無事に完成した。
作画にあたってはキャラクターデザインから人形を制作し作画の参考にしたり、ディズニーの長編制作でも使われていたライブ・アクションを日本で初めて取り入れるなど、様々な試行錯誤も繰り返された。実際の俳優の動きを撮影したフィルムを紙に写し、人物の動きを描くライブ・アクションでは当時東映のニューフェイスとなった水木襄、佐久間良子らが主人公たちに扮した演技が撮影され使用されている。また映画に登場するすべてのキャラクターを、俳優の森繁久彌と歌手の宮城まり子の2人が演じ分けて担当している。
1958年10月22日に公開され興行的にも成功を収めたほか、同年度の芸術祭団体奨励賞、ブルーリボン特別賞、毎日映画コンクール特別賞を受賞するなど作品としても評価された。またベネチア国際児童映画祭児童部門特別賞、ベルリン市民文化賞、メキシコ政府名誉賞などを受賞するなど海外でも高い評価を得て、香港、台湾やアメリカ、ブラジルなどで公開され、総額9万5000ドルの配給収入を獲得。日本のアニメーションが海外マーケットでも魅力をもつ作品であることを証明し、市場開拓の役割も果たした。
この作品及び、続く東映動画長編アニメーション作品を制作し、育ったスタッフたちが、のちにアニメ大国となる日本の商業アニメを支える存在としてはばたいてゆき、また映画館でこの作品を見てアニメ制作を志す数多くのクリエイターを誕生させたという点でも日本のアニメーション史にとって重要な作品となっている。2017年には、日本アニメ生誕100年記念プロジェクト「アニメNEXT_100」が推進して、「白蛇伝」の公開された10月22日が【アニメの日】として正式登録され、また今年2019年の第72回カンヌ国際映画祭の過去の名作作品を上映するカンヌ・クラシック部門でも上映が行われた。
【ストーリー】
中国に古くから伝わる「白蛇伝」は、白ヘビの化身である白娘(パイニャン)と、その恋人・許仙(シュウセン)との美しい愛の物語。この民話をもとに、青魚の精・少青(シャオチン)や、許仙の仲良しパンダと猫熊ミミィ、白娘と許仙の仲を裂こうとする高僧法海らが登場し、美しい音楽と豊かな色彩で綴った豪華巨編。
【声の出演】
森繁久彌/宮城まり子
【スタッフ】
原案:上原信 製作:大川博
企画:高橋秀行/赤川孝一/山本早苗
脚本・演出:藪下泰司 音楽:木下忠司/池田正義/鏑木創
構成美術:岡部一彦/橋本潔 台詞構成:矢代静一
撮影:塚原孝吉/石川光明 原画:大工原章/森康二
【公開日】1958年10 月公開