宮崎駿の長男、吾朗が初監督に挑む。それだけでも興味津々の一作。原作は世界的ベストセラーで、宮崎駿も『風の谷のナウシカ』などに多大な影響を受けたと公言するファンタジー。全6巻の、とくに後半のエッセンスを抽出しながら、架空の世界「アースシー」における異変と、その原因を探る王子アレン、大賢人ハイタカ(ゲド)の旅をつづっていく。
人物の過去や行動の動機が詳しく語られないので、ある程度、基本設定を知ってから観た方がいい。吾朗監督は、人間の生と死など原作のテーマを追求しているものの、ストーリーテリングは、やはりまだ熟練とは言えない。ただ、満天の星空や、微妙な色で変化していく夕暮れなど、絵画のように美しい映像は印象的。全体の色づかいのバランスにも、過去のジブリ作品との違いが意識されているようだ。声優陣では、やはりハイタカ役の菅原文太が重厚。手嶌葵は透き通る歌声が心に響く。結末を含め、いろいろと突っ込みどころはあるが、巨匠の息子の初監督作として温かく見守りたい作品である。(斉藤博昭)